575 アルジス・バドリス 「誰?」
- 2023/03/05
- 09:37

事故に巻き込まれて、体の大半が自分では無くなった男のお話。山口雅也の制作総指揮で、国書刊行会から「奇想天外の本棚シリーズ」が出ると見て、一冊読むことにした。本著の原題はそのまま『WHO?』、1958年刊。以下がシリーズのキャッチコピーだ。山口のイメージは「暖炉」のようだ。==噂には聞くが、様々な理由で、通人でも読んでいる人が少ない作品、あるいは本邦未紹介作品――の数々――ジャンルもミステリ、SF、ホラーから普...
574 町田そのこ 「52ヘルツのクジラたち」
- 2023/03/01
- 23:54

二人が出会うお話。世の中の人でも、大海のクジラでも、二人や二頭が「出会う」ということは、稀で貴重なことだと思い至った。2021年本屋大賞は知っていたが、Twitterか誰かのインタビューか、その両方を見て読むことにしたようだ。受賞後にも、長いこと良い評判が耳に届いてくる作品は、多くは無いから。三島貴瑚(きこ)は、大分の田舎の家に越してきた。なぜ越してきたかは、おいおい分かってくる。近所のスーパーで、地元の老...
573 呉勝浩 「爆弾」
- 2023/02/17
- 13:29

仕掛けられた爆弾をめぐる、力強いミステリーであり、コンゲーム(取り込み詐欺)。コンゲームは、物語の中はもちろん、作者と読者の間でも行われていたようだ。「このミス1位」と聞いて読むことにした、呉勝浩さんは初めてだ。酒屋で自動販売機を蹴り壊して、しょっぴかれた男はスズキタゴサクと名乗り、のらりくらりと供述をはぐらかしている。だが「(あと5分後の)10時ぴったり、秋葉原の方で、きっと何かありますよ」と言った...
572 一穂ミチ 「光のとこにいてね」
- 2023/02/15
- 20:00

結珠(ゆず)と果遠(かのん)の二人の、小学校2年生から29歳までのお話。上手なところは幾つも見つかったが、私は本著の「おおきなお話」を楽しむことはできなかった。一方で、今の若い人の「家族感」のようなものが、少し見えた気がした。前述507「スモールワールズ」がとても良かったので、読むことにした。結珠は、母さんに連れていかれ、1時間ほど待たされる団地で同じ年の果遠と友だちになる。お互いを大事にして、とても...
571 筒井康隆、 蓮實重彦 「笑犬楼vs.偽伯爵」
- 2023/02/04
- 18:01

御二人による、対談、相互批評に、往復書簡。「ぃやだ。おじいちゃんは、あれでも笑ってるのよ」と、幼い私に叔母が、そっと説明してくれたことを思い出した。最初の対談「同時代の大江健三郎」では、元々交流が少なかった御二人の間の距離が、語りながらずい、ずいっと、近づいているように感じられた。同時に御二人が、大江健三郎の人も、特に作品を気に入り大事にしている事が伝わってくる。相互批評は「時をかける少女」と「伯...
570 ソン・ウォンピョン 「三十の反撃」
- 2023/01/31
- 23:50

全世界の人たちに通じるであろう、「ズルい奴ら」との戦いを描いている。書かれている「ズルい奴ら」は、決して個々の人だけではない。そんなところが、「今の全世界」のような気がした。前著の「509 アーモンド」がとても良かったから、新刊に手を伸ばした。30歳になるキム・ジヘは、就職難でインターンになれても正社員にはなれず、を繰り返している。今度のインターンは、マスコミ大企業が設立した財団。幾つものカルチャースク...
569 平岡陽明 「素数とバレーボール」
- 2023/01/21
- 09:35

高校バレーの6人が、41歳になる年に起こった出来事。ミステリー仕立てのところも楽しめた。これも書評だけど、多分北上次郎のイチオシに反応したようだ。41歳だから、普通に暮らしていたら、あれもこれも、息子も娘も、とそりゃあ忙しい年頃。そんな4人の誕生日が近づくと、各々にメールが着く。詐欺メールのようだ。====41歳の誕生日おめでとう。ようやくこの日が来ましたね。バレー部が解散した高3の夏、7月29日。みんなで部...
568 梶よう子 「広重ぶるう」
- 2023/01/16
- 06:56

歌川広重の後半生を描いている。遅咲きの浮世絵師が、新しい藍色に出会う瞬間とひらめき。そして人生にドライブをかけていく様子が、良く表されていた。各紙書評で評判が良かった。ゴッホやモネが広重を模写した事を知っていたから、これはぜひ読もうとなった。朝湯を欠かさず、うだつが上がらない「重右衛門」の姿からお話は始まる。本著ではずっと、広重の本名である「重右衛門」と書かれている。武家の生まれなのだ。美人画は「...
567 下川 裕治 「おくの細道」をたどる旅
- 2022/12/29
- 08:11

「12万円で世界を歩く」の下川裕治による「おくの細道」。お年と共にゆるい旅にはなってきたが、時に下川らしい考察や感想が見て取れた。ネットで見つけて読むことにした。「12万円」が世に出たのは1990年。私は89年4月から働き始めて忙しかったはずだが、週刊朝日を時折買って「もう〇万△円しか残っていない・・・」と、手に汗を握りながら彼の世界一周旅行を見守っていた。それから、もう32年が経とうとしている。「路線バスと徒...
566 桂望実 「残された人が編む物語」
- 2022/12/23
- 22:22

「失踪した人」を道具に使った、連作短編集。残された人が、「失った人の物語」を編んでいるように見えるが、「残された人の物語」の方に、私は強く惹かれた。新聞書評から選んだ。これも勧め上手の北上次郎だろう。出てくる主人公たち誰もが、身近な人(探し人、としよう)を探している。ある人は、母の死を知らせようと弟を。ある人は、昔のバンドの曲が売れそうでバンドメンバーを。ある人は、身元不明の遺体の所持品が、十五年...
565 エルヴェ ル テリエ 「異常【アノマリー】」
- 2022/12/10
- 23:17

テーマがいろいろと散りばめられているSF。テーマの中には危険な例示もあるのだが、今の時代に投げかけるには、ちょうど良いのかもしれない。私の「書評の法則」の網に引っかかった。2020年夏にフランスで発売されてから、バカ売れだと。アノマリー(anomaly:経済/市場用語)は、「変異性」と訳されることが多いのですが、文字通り、説明しきれない「変な」「異質」事象といえます(@SMBC日興証券)。殺し屋、死にかけている兄を訪...
564 沢木耕太郎 「天路の旅人」
- 2022/11/30
- 21:45

戦時中末期から、自ら「密偵」として、中国奥地からインドまで旅した実在の男のお話。う~ん、と、良くも悪くも、いろいろ唸ってしまったよ。「長旅をした男の話」を、沢木耕太郎が書くと知って、読むことにした。最後に読んだのは、山野井泰史を書いた「凍」。もう15年以上前になる。その前の著も、恐らく15年は空いている。私にとって沢木耕太郎は、大学生の頃の「深夜特急」から始まってから、数年ほどの短い間に沢山の著書を読...
563 蝉谷めぐ実 「おんなの女房」
- 2022/11/10
- 23:15

女形の夫と、武家から彼に嫁いだ妻との、ラブストーリー。両者の想いをストレートではなく書いているところが、かえって迫ってきた。書評やらツィッターやら、評判が良くて読むことにした。江戸後期の、文政の江戸が舞台。文政は、勝海舟や大村益次郎が生まれた年号。武士の父の命に従って、志乃が嫁いでみたら、そこには女の己より美しい女がいた。冒頭で「白粉がいつもと違います。買い直していらっしゃい」と女言葉で命じるのは...
562 ルシア・ベルリン 「すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集」
- 2022/11/01
- 17:51

ルシア・ベルリンの小説には、独特の際立ちを幾つも見つけることができる。乾燥、温かさ、生動、普遍・・・これらを合わせて世界観とでも呼ぶのかな。前述462「掃除婦のための手引き書(以下「掃除婦」)」24編と、本著19編を合わせて、2015年に発刊されたルシア・ベルリンの作品集「A Manual for Cleaning Women」となる。本著はいわば後編、の位置づけだ。「掃除婦」がとても印象深く、本著の出版を見て直ぐに手配した。「掃除婦...
561 万城目学 「あの子とQ」
- 2022/10/23
- 18:14

吸血鬼を道具に使ったファンタジー。そして「ある者が救済される話」。17歳を10日後に控える嵐野弓子の部屋に「Q」は現れた。これから誕生日に行われる儀式までの10日間、お前を監視すると「Q」は伝える。直径60センチくらいの黒っぽい楕円形で、触れたら怪我をしそうなトゲが沢山ある。そんなウニのような形をした「Q」は宙に浮かび、時に現れ、時には声だけで話しかける。父と母から自分が吸血鬼の家系である事は聞いていたし、...
560 藤沢周平 「隠し剣 孤影抄」「隠し剣 秋風抄」
- 2022/10/14
- 22:11

必殺の「隠し剣」を道具にして、人間の様々な「業」を描いている。各々の「業」のあとに待っていた「果報」も、バラエティに富んでいた。さすが藤沢周平♪宮部みゆきが読売新聞に寄せた短い評に、ぐっと引っ張られて旅行に携えた。==二冊合わせてたったの十七 篇 。十七篇の短編に、人生で起き得る全ての心模様が描かれている。全ての隠し剣に真実があり運命があり、愛があり憎悪があり忠誠があり裏切りがある。==こんな風に書...
559 奥田英朗 「向田理髪店」
- 2022/10/10
- 21:24

かつて炭鉱があった町にある、理髪店の店主を主人公に据えたドラマ。大きなストーリーは無いけれど、小さなストーリーから「普遍なこと」に想像が飛んでいった。旅行に奥田英朗の文庫を探し始めたら、高橋克実で映画化されるという記事を見て、興味をそそられた。北海道の中央にある苫沢町は、かつて炭鉱で大いに栄えた町だ。理髪店の店主は向田康彦、53歳。床屋は町に二軒しかない。ここに床屋を開いた父がヘルニアを患って店に立...
558 桜木紫乃 「誰もいない夜に咲く」
- 2022/09/29
- 23:20

相変わらず北海道を舞台とした短編集。各編の毛色は違うが、「桜木紫乃が描く女性は強い」というところは今回も一貫していた。強さは「力」とか「固い」という類ではなく、「折れない」「柔らかさ」といった強さだ。旅行に臨み、桜木紫乃の文庫化されているものからランダムに選んだ。【波に咲く】で中国から嫁いできた花海は、ずっと日本語が話せない振りをする。【海へ】の千鶴は、ヒモの健次郎とパトロンの加藤の携帯履歴を消す...
557 A.A. ミルン 「プー横丁にたった家」
- 2022/09/28
- 03:21

「小さな世界」の「小さな視点」も大事だと、思い出させてもらった。石井桃子の、少し舌足らずにしたプーのセリフは、とぼけた感じが沁みだしてきていた。プーたちの家だけでなく「ピクニックにいいところ」や「おおみずのでるところ」なども書夏冬の「児童書読み返し」が、今夏はまだだったので、手に取ってみた。少年文庫になっているのは2冊だけだが、イーヨーやトラ―、ふくろうとスピンアウト作も出ているんだね。冒頭の地図が...
556 西尾潤 「無年金者ちとせの告白」
- 2022/09/02
- 22:45

中央高速のPAで働く、70代の「ちとせ」の日々と、彼女が巻き込まれる、大変な事件のお話。相変わらず、西尾潤さんのテンポは素晴らしかった(^^)/もひとつ言うなら、彼女の「カット割り」も凄いと思っている。「いたたたたたた」(「た」は6回、皆そうだよね♪)思わずちとせは声を出す。向こう側のベンチで体操していた女性従業員が、同じように唸った。「んむっ、いたた」10ページ目だが、とっても秀逸な出だしだ。西尾潤は、2018...
555 上橋菜穂子 「風と行く者」
- 2022/09/02
- 21:30

「守り人シリーズ」の外伝の最新作。20年前と現在のお話がシンクロしながら、ラストへ向かう様子がとても綺麗だった。もう一つ良かったのは「死者や他人が、自分の中に生きていることを見つける」瞬間を、幾つも書いていること。出版社のPR誌で文庫が出ると知って、直ぐに予約した。単行本は2018年に出版されていたが、見落としていた。タルシュ帝国との戦いから1年半後、バルサはタンダと暮らしている。薬草師タンダの片腕は戦で...
554 ヘレン・アポンシリ画 リリー・マレー文 「海のものがたり」
- 2022/08/22
- 22:22

海藻の押し花ならず「押し草」で、海の生き物を描いたヘレンの作品に、編集者のリリーが良い文を寄せている。なぜか私は夏にこうした画集を手に取り、冬には写真集に寄りそうみたいだと気がつけた。夏に画集を見るのが好きなんだ、と気がついた。 眺めて、閉じて、また開いて。一生懸命見なくても良い。気に入った画だけ何度も眺める。冬には写真集に手が伸びる。ちょっと集中して、全部を眺めている。ヘレンは、英イーストサセッ...
553 岩井圭也 「生者のポエトリー」
- 2022/08/21
- 17:33

「詩」を道具に使った連作短編集。私にとって詩は「読むもの」だった。しかし、詩は「作るもの」で「読み上げるもの」でもあり、それら2つを行うことには、大事な作用が秘められていそうだ。【テレパスくそくらえ】母以外の人には言葉を発することがとても難しい、場面緘黙症の佐藤悠平が主人公、25歳。中学校では激しいいじめにあった。アルバイトで知り合った、久太のライブへ行ったところ、楽器のトラブルで演奏ができず、久太...
552 近藤康太郎 「三行で撃つ」
- 2022/08/11
- 23:24

文章をうまく書けたら、と思う人への20発(残りの5発はおまけだと)。そんな軽い出だしなのだが、技術論は平易で的確だし、また彼の文には大きな熱量が秘められていて引き込まれた。そして、残りの5発はライターでも、小説家志望でも、書評家でも、何かを書いてる人に向けたとても良い思想指南だった。近藤康太郎は朝日新聞の編集委員を続けながら、2020年の本著出版の3年前に大分日田に引っ越して、百姓を始めた。更に狩猟も始め...
551 吉村萬壱 「CF」
- 2022/08/09
- 23:23

「責任」をチャラにするシステムを運営する、巨大企業CFを道具にした物語。吉村萬壱らしい「不穏」な匂いが、そこらかしこに漂っている。吉村萬壱は曲者だと思っている。それも飛び切り「デキる曲者」。気がついた時には我々の背後は取られて、匕首が音もなく肩口に当てられているのが目の端に見える。その匕首は間違いなく「よく切れる」。そう思った時には、もう私たちの命はなさそう。その吉村萬壱が、どうも近未来小説なのかSF...
550 桑田佳祐 「ポップス歌手の耐えられない軽さ」
- 2022/07/30
- 10:41

週刊文春の連載エッセイ(2020年1月~21年5月終)。レスペクトしてきた先人や周りの人の書き方から、また彼の文体から、桑田佳祐の「素」が見えてくるだけでなく、サザンオールスターズの歌々たちが、読後に改めて身近に感じられてきた。まずは文章にのけぞった。自分のことを「アタシ」と書いている。恐ろしいほどに「下手(したて)」な目線と語り口になっている。いいのか? 桑田? ちょっと小物に見えかねないぞ、などと浮...
549 安野貴博 「サーキット・スイッチャー」
- 2022/07/24
- 15:31

自動車の完全自動運転を道具に使った、サスペンス。ソフトウエアエンジニアである著者が、臨場感があるストーリーを現している。新聞書評から、それもSFなので、小谷真理の書評から手に取ったと思われる。2029年の日本では、人の手を一切介さない完全自動運転(レベル5)が急速に普及してきている。運転席が無い車が販売され始めたのが4年前のこと。自動運転のアルゴリズムを自ら開発した、サイモン・テクノロジー社の代表である坂...
548 藤野千夜 「団地のふたり」
- 2022/07/14
- 09:45

古い団地に住む、アラフィフの幼馴染二人のお話。いや、もう一人いて三人だ。のほほんとした狭い世界のお話だけど、何とも穏やかな空気がお話の中に漂っていた。奈津子は出戻り。母親と同居しているが、母は実家の親族の介護で長らく向こうに行っていて一人暮らし。イラストレーターだが、近年は仕事が減ってしまって、団地や近隣の人の不用品をフリマやオークションで売って手間賃を貰っている。団地の老人たちからの頼み事の「よ...
547 山本文緒 「自転しながら公転する」
- 2022/07/09
- 23:08

色んな細工が施されている、ラブ・ストーリー。我々読者を鼓舞してる。余りにネットで話題になっていて予約したが、渋滞で一度流した。話題のトーンが落ちないから、二度目の予約をしてやっと読めた。冒頭のプロローグが、お話の結末を示唆していて「お~、流行りのやつか。でも油断は禁物かな」と読み進んだ。32才の都(みやこ=通称みゃーちゃん)は、筑波にあるアウトレットのアパレル店で、契約社員として働いている。アウトレ...
546 錦見映理子 「恋愛の発酵と腐敗について」
- 2022/07/03
- 19:33

一人の男を巡る、三人の女による喜劇。カラっとしていて、何かが深い。何だろう。面白く、力強かった。新聞書評から引っ張ってきた。錦見映理子は2018年に「リトル・ガールズ」で太宰治賞を受賞して、小説はこれが2冊目。歌人でもあり、歌集を2つ出している(2003年の歌集にはAmazonで36万円の値が付いていた(^^ゞ)29歳の佐々木万里絵は、二十も年上の男との社内不倫の末に退職して、親から借金をして、郊外の商店街に小さなティ...
545 佐々木譲 「偽装同盟」
- 2022/06/28
- 18:29

日露戦争に負けて、外交権と軍事権をロシアに渡した日本を舞台にした、警察小説。からくりは前作同様面白かったが、佐々木譲が低い声で呟いているのは「今の日米同盟のこと」、なのではないかと思い至った。前作「抵抗都市」を楽しく読んで、第二弾である本作を手にした。版元は「改編歴史警察小説」とコピーを打っている。敗戦から12年たった、大正6年の東京、前作から数ヶ月が経っている設定。前作でも活躍した、警視庁刑事課の...
544 イ・ヒョン 「ペイント」
- 2022/06/12
- 12:13

里親制を道具に使い、親子とは? と問いかけてくるお話。家庭内が希薄になっている今後は、この切り口は更に大事になるんだろうな。今ブログを書き始めるまで、てっきり本作は前述509「アーモンド」のソン・ウォンピョンの次作だと思っていた。作者の名前を打ち込もうとして、あれれ・・・そうか「アーモンド」の次に同じ文学賞(チャンビ青少年文学賞)をとった作品だったのか。近未来の韓国では、育児放棄を認めて、国が子供を...
543 木皿泉 「カゲロボ」
- 2022/06/01
- 23:01

もうすでに人間そっくりのロボットが、日本でつくられている。そのロボット「カゲロボ」を出汁に使い、人間模様を描いた連作短編集。前述541「ざざなみのよる」が衝撃的で、次の本が手元に無かったから、少し古い「彼ら」の本を手に取ってみた。(木皿泉は、脚本家の夫婦のペンネーム)ブログでは間が空いているが、同じ著者の本を続けて読むのは随分と久しぶりだった。「はだ」:中学同級生のタチバナユキエが自殺してしまったこ...
542 鈴木英人 「鈴木英人 ALL TIMES作品集」
- 2022/05/27
- 22:44

新聞の書評に、鈴木英人の「ぬり絵」が出ていて、お、それはと図書館に予約した。2週間ほどして「「ぬり絵」は汚されてしまうので、図書館では揃えない決まりなんです」と連絡が来た。でも、予約すると23区全部の図書館に、蔵書か入れる見込みがあると、待つけど回ってくる。「そうですね。でもぬり絵を鑑賞するのも有ると思います。どうやら23区どこも入れてないようで、文京区がエイッと入れたら伝説になりますよ」と煽ってみた...
541 木皿泉 「さざなみのよる」
- 2022/05/24
- 23:32

四十三歳で亡くなったナスミの半生を、その死の前後の出来事を周りの人に語らせることで、浮かび上がらせている。斬新で巧妙な構成と、キャラクターの際立ちに、唸りながら読み終えた。受講している小説教室で題材として取り上げられて、第一章を読んだ。その第一章にたまげて、早めに続きを読んでみようとなった。第一章、たった20ページで、主人公のナスミは「もうこの世では見れなくなる」と分かる。書き出しから「もうすでに、...
540 宮部みゆき 「昨日がなければ明日もない」
- 2022/05/22
- 00:30

探偵杉村三郎シリーズ第6弾。3つの中編から成る。シリーズものの「次」に余り手を出さなくなって久しいが、杉村三郎の「次」には手を出すだろう。その理由が今回良く分かった。前作第5弾「希望荘」がとても良かったので、読むことにした。(1~4の「誰か」「名もなき毒」「ペテロの葬列」「ソロモンの偽証」は未読である)長い旅行に携えるのに、文庫が出ていることも都合良かった。今でもシリーズの「次」が出たなら、出なくても...
539 パオロ・コニェッティ 「フォンターネ 山小屋の生活」
- 2022/05/11
- 23:44

筆を持てなくなってしまった著者が、山小屋に滞在した半年ほどを書いたエッセイ。山というものが自分にとってどんなものなのかという事について、一つの考えを増やしてくれたことで、私には忘れられないものになった。前述368「帰れない山」が大変良かったので、次の訳書も読むことにした。数年前、三十歳であった僕は、エネルギーが枯渇して自信を失い、何も書けなくなってしまっていた。小説を読む事もできなかったが、ソロー「...
538 アンソニー・マゴ―ワン 「荒野にヒバリをさがして」
- 2022/05/02
- 13:15

ハイキングに出て、雪で迷ってしまった兄弟のお話。児童書だからと侮るなかれ。子供の視点、子供の思考に、思い出させて貰うことがきっとあるはずだから。年に2-3冊くらいは岩波少年文庫を読もう、と思っている。本著はイギリスの児童文学に送られる「カーネギー賞」を2020年に受賞したせいか、大手新聞が書評でとりあげていて、目にとまった。よく知っていなかった同賞を、Wikiで調べて驚いた。初年度1936年(昭和11年!)の受賞...
537 今村翔吾 「塞王の楯」
- 2022/04/24
- 11:59

戦国時代、城の石垣を組む者と、鉄砲を進化させる者とを組ませたエンターティメント。良くできていたし、テーマの1つに「泰平の世=平和」があるところに引っ張り込まれた。評判が高く、直木署受賞で読むことにした。一乗谷に住んでいた幼い匡助は、城を攻めてきた織田勢によって家族全てを殺され、逃げる途中で男に拾われる。三十半ば、総髪を無造作に束ね、泥鰌のような口ひげを蓄えた平装の男が名乗る。「飛田源斉という。この...
536 ノーマン・マクリーン 「マクリーンの川」
- 2022/04/17
- 23:59

モンタナ州西部の自然、エルクホーン川の上流が主人公だ。自然が主人公、というのはドキュメンタリーではあるが、小説で成立しているのは珍しい。(例えを出そうとして唸った・・・最近では「ザリガニの鳴くところ」・・・いやぁ・・・あのミシシッピの中州もサブキャラだなぁ・・・)それほどに著者マクリーンが、ここを描きたかった、書かざるを得なかったのだろう。お友達から単行本を貰った。「A River runs through it」の原...
535 高原英理 「日々のきのこ」
- 2022/04/08
- 21:57

繁栄した大小のきのこに浸食された世界を描いている、幻想小説。人々はきのこに「やられちゃってる」ように見えるが、実は「解放されている」ように感じられた。==まるまるとした茶色いものたちが一面に出ていて、季節だなと思う。どれもきのこである。==この出だしから、読者はゆっくり、でもしっかりと、きのこの世界へ引っ張られていく。【所々のきのこ】わたしはこれらきのこを、歩きながらばふんばふんとふんでいく。「ば...
534 複数著者 「地球の歩き方 ムー 異世界(パラレルワールド)の歩き方」
- 2022/04/06
- 01:16

手に取ってみて、興味が湧いたページを開いてみる。信じるか信じないかいや、楽しむか楽しまないか行くか行かないか、は、わたしたち次第(^^)/目次から抜粋します。下に貼った「不思議スポットMAP」もご参照(アフリカが少なすぎるが)(気になったところに、☆印を付けました)巻頭特集:モアイ像ギザのピラミッドナスカの地上絵ストーンヘンジボロブドゥールネス湖(UMA)見出し:(筆者が興味大の「聖地&パワースポット」のみ、...
533 木内昇 「剛心」
- 2022/03/22
- 22:24

日本橋、国会議事堂、東大寺大仏修復を「行った」と言って良い、明治の建築家・妻木頼黄(よりなか)の半生を描いている。一人の人物を掘り下げて書くのは、木内昇の得意とするところだが、本著は素晴らしく、彼女の代表作に数えられることだろう。予言してみよう。本著は山本周五郎賞、吉川英治文学賞、三島由紀夫賞のいずれかを受賞する。木内昇は直木賞、柴田錬三郎賞、中央公論文芸賞を受賞済だから。木内昇の新刊は全部読むこ...
532 増山実 「甘夏とオリオン」
- 2022/03/12
- 22:59

落語家に弟子入りした女の子のお話。著者の豊富な落語経験に基づく、エピソードやセリフ回しもお見事だった。異色なのは主人公と言ってもいい、言動も外見も表情も「見たいッ!」って思わせる桂夏之助師匠が現れないのだ。他でもこの手法は、稀に見たことがあるが、中々面白いプレーだと今回再認識した(傑作は宮部みゆき「火車」)。2019年刊だから、新聞書評ではなく、誰かのコラムかインタビューで引っ掛かった。どこであったか...
531 劉慈欣 「三体III 死神永生」
- 2022/02/28
- 22:14

SF「三体」シリーズの完結編。時空を超えている。「人類のお話」として読むのも良ければ、「個のお話が人類を支える」と見て楽しむこともできる。「三体Ⅱ」では、最後の面壁者の羅輯が黒暗森林理論から、三体世界からの侵略を何とか食いとどめたところで終わる。本著は三体との交流を始めた地球からお話は始まる。三体は甘くはなく、量子コンピューターである「智子」は相変わらずそこいらじゅうに居り、その代表格は姿を人に変え...
530 吉田俊宏 「ゲルダとキャパ 戦場カメラマンの青春」
- 2022/02/06
- 10:10

キャパを中心にゲルダも語られるものには触れてきたが、このコラムは「ゲルダを中心にキャパも語られている」ところが、新鮮だった。日経新聞日曜版に、二週上下で掲載されたコラム。小見出しの「スナップのキャパ、構図重視のゲルダ」に痺れた。ドイツ生まれのゲルダ、ハンガリー生まれのキャパ。二人の共通点は「(追われた)ユダヤ人」であること。1934年、モンパルナスのカフェで、金髪の女性がアンドレ・フリーマンに声をかけ...
529 道尾秀介 「雷神」
- 2022/02/05
- 20:51

精緻な設計による、ミステリー。器用な企みから作られたカラクリはお見事。でも、今や「人」や「人の心」に興味が移った私には、最早向いていなかったかもしれない・・・著者本人の「昔の自分には絶対不可能だったと言い切れる、自信作」とのコメントを見て、読むことにした。彼の著作は多分二作目・・・と調べてみたら、前回は恐らく「カラスの親指」(2008年)、13年ぶりだ。父が開いた料亭「一炊」継いだ、藤原幸人が主人公だ。21...
528 吉本ばなな 「ミトンとふびん」
- 2022/01/23
- 23:06

旅行体験をバックグラウンドに置いた短編集。あとがき冒頭がすべてを語っていて、引用させていただきます.何ということもない話。大したことは起こらない。登場人物それぞれにそれなりに傷はある。しかし彼らはただ人生を眺めているだけ。「ただ人生を眺めているだけ」ということの中は、「達観」もあると、分かった。吉本ばななの旅行体験が基になっている。体験は随分長い期間にまたがっている(金沢の彼女は20代だろう)。金沢...
527 西條奈加 「心淋し川」
- 2022/01/18
- 12:15

根津権現(現在の根津神社)の北、千駄木町の貧しい長屋とそこを流れる小川を舞台にしている。登場人物たちが、読後も心の中に居座ってしまう強さを持っていた。舞台も構成もカラクリも、見事だった。お勧めだよ。164回直木賞受賞を聞いて、読むことにしたが1年かかった。自分のブログを見返して「今春屋ゴメス」「六花落々」「刑罰0号」と、西條奈加をもう三冊も読んでいたと気が付いた。何かが、引っかかり続けているのだろう。...
526 宇佐美まこと 「子供は怖い夢を見る」
- 2022/01/08
- 22:20

3つのテーマ/ストーリーが見えた。各々は強く、また絡まっていて、上手だった。世の評判も良く、作品としては上等なのだろうが、私との相性は今一つだったかもしれない。宇佐美まことは、2年ほど前から新聞書評の法則に合ってきてリストに挙げていた。2019年 黒鳥の湖2021年 羊は安らかに草を食みだが二冊いずれも、供給時に他本と渋滞になってしまい諦めていた。今回も同じく書評から引っかかってきた。いま勢いがある作家さん...