528 吉本ばなな 「ミトンとふびん」
- 2022/01/23
- 23:06
旅行体験をバックグラウンドに置いた短編集。あとがき冒頭がすべてを語っていて、引用させていただきます.何ということもない話。大したことは起こらない。登場人物それぞれにそれなりに傷はある。しかし彼らはただ人生を眺めているだけ。「ただ人生を眺めているだけ」ということの中は、「達観」もあると、分かった。吉本ばななの旅行体験が基になっている。体験は随分長い期間にまたがっている(金沢の彼女は20代だろう)。金沢...
520 吉本ばなな 「吹上奇譚 第三話 ざしきわらし」
- 2021/09/28
- 22:32
このブログでは、編集者だった友人のアドバイスから、最初の2-3行でキャッチコピーを書くようにしてきた。(今や小説の「出だしの一行」も、斯様に重要だそうだ)だが今回は、いろいろ考えてみたけれど、この帯には敵わなかった「生きていてほしい、それだけでいい」吉本ばななは、亡くなった人たちを忘れることがない。いや、亡くなった大切な人たちを、私たちは重さのない着物のように幾重にも纏い続けて、そして私たちも死んで...
473 吉本ばなな 「とかげ」
- 2020/10/18
- 20:40
生きていく上で誰にもやってくる「つらい事、厳しい時期」は、時間や人との繋がりのなかで癒されたり、自分を強く鍛えてくれたりする。そんな示唆の短編集。(う~ん、月並みな表現しかできない・・・)【とかげ】ダンスのインストラクターを辞めて、鍼灸学校に通うことにした「とかげ」が言う。「体を使って外に向かって表現し続けていくよりも、中にあるものを外に押し出さないと 乾きは癒されないことがわかったの」結婚を申し...
439 吉本ばなな 「もしもし下北沢」
- 2020/03/20
- 22:48
父が急逝してしまったあとの娘のお話。舞台となる下北沢は「道具」と呼ぶには存在感がありすぎて、本著では力強い「準主役」と言えるだろう。下北沢の「古き良き時代」の空気を、吉本ばななの言葉で読めるというところも贅沢だ。旅行先から急遽帰国を早めなければならない事になり、段取りが済んだ後その帰路でずっと本著を読んでいた。他にまだ3冊もあったのだが、「今回の帰路はこれ読むだけだろう」と分かっていた。どうも苦境...
381 吉本ばなな 「吹上奇譚 第二話 どんぶり」
- 2019/02/25
- 21:37
吉本ばななのセミ・ファンタジー第二弾。「セミ」と造語にしたのは、ファンタジーの形を「少し」借りて、今までと同じように死や苦難に臨む私たちを鼓舞する内容だから。テーマは何時もの吉本ばななと変わらない。「死に臨む、対峙する」ことは、美鈴に憑りついた霊、そしてミミのセックス・フレンドだった都築の死のこと。亡くなった人本人にとっては、死ぬことは勿論無念で苦しく辛く、残った人にとって、その後の彼らの欠如は、...
337 吉本ばなな 「吹上奇譚 第一話 ミミとこだち」
- 2018/06/02
- 23:04
吉本ばななにしては、珍しいファンタジー。第一話だし、あとがきには「シリーズ」「次作はどんぶり」ともあり、続いていくようだ。吉本ばななが作った世界は、まだ本著だけでは全貌には至らないのだが、彼女特有の「死者との繋がり」といったものが色濃く出ていて独特のものだ。この世界でこの先どんな物語が続いていくのか、大変興味が残る読後になった。海と山に囲まれた孤島のような吹上の街で、早速お話はテンポを上げてくる。...
223 吉本ばなな 「下北沢について」
- 2016/10/18
- 23:58
代沢と上馬に住んでいた頃の出来事を中心にした吉本ばななのエッセイ。下北沢という町というよりも、そこに住んでいたり店を営んでいたり、そこで一緒に働いた人たちを大変優しい視線で思い出している。「思い出」というものは、このように熟成させればシアワセなものになる。でも、勿論「その時」にちゃんと人と関わっていたり、話していたり、共有している事が前提だけどね。ブックカフェ「B&B」が企画した下北沢のタウン誌に寄...
186 吉本ばなな 「イヤシノウタ」
- 2016/06/03
- 08:24
清志郎の(セムシーズかな)同名の歌を題名にした、吉本ばななのエッセイ。優れたエッセイには、とても個人的な出来事から、読者に何らかを気づかせて、いろんな方向へ歩いていかせる力が溢れていると思う。まず個人的な出来事だが、自分がきっちり経験している事だ。伝聞じゃぁダメ。特に本著で、吉本ばななは自分が見た夢の事を幾つも題材にしている。私は夢を見る事ががくんと減ってきてるし、覚えている事も少なくなり寂しいの...
92 吉本ばなな 「おとなになるってどんなこと?」
- 2015/08/19
- 23:37
子どもへのエッセイの体裁をとっているが、自分の事/家族の事も整理しながら、おそらく長い時間をかけて書かれた、吉本ばななの「理(ことわり)の書」だと思う。挿絵もちりばめられたスカスカの125ページに、大きな宇宙が広がっているし、宝にできる文章が見つかるはずだ。本棚に常備するか、息子へ押し売りしようかな・・・子供がしそうな、8つの直球の質問が並んでいる。おとなになるってどんなこと?勉強しなくちゃダメ?友達...
66 吉本 ばなな 「キッチン」
- 2015/06/18
- 00:04
こんな薄い本に、短編が3つ入っているだけなのに、我々の感受性や想像力・優しさ、ひいては我々の器を試す、凝縮された言葉たちと分厚い行間に満ちた小説だと、やっと分かった。でも攻撃的じゃあない、お仕着せもない、限りなく我々を「誘い続けている」。楽しかった♪ 新刊だけじゃあなく、スタンダードも読み返さないと・・・(^_^;)祖母を無くし、天涯孤独になったみかげは、葬式で初めて会い「何か手伝わせて下さい」と切望する...